ハノイのBRTと公共交通

  2016年12月31日に新しい公共交通システムとして、BRT (Bus Rapid Transit - バス高速輸送システム)が1路線開業しました。Kim Ma バスターミナルから Yen Nghia バスターミナル までの約15Kmの区間です。これも日本のODAによるものです。”BRT” とはご存知の通り、バス専用レーンを作り、合わせて専用停留所と料金徴収システムなどを整備し、バスでも渋滞などに左右されない定時運行を実現しようというものです。鉄道を敷設するより安価で早く実現できるというところが ”BRT” のメリットですね。日本でも地方の公共交通の確保のために "BRT" の例があります。地域住民は公共交通であれば ”鉄道” の輸送力や利便性を求めますので、"BRT" は中途半端なのかどこでも賛否両論、ということが多いようですね。でも、うまくいけば結局は1両編成のディーゼルカーの鉄道を敷設したようなもので、”バス” と考えるからいろいろ言いたくなるのかも知れませんが、”無軌条気動車” と考えると(日本で ”トロリーバス”の事を法的には ”バス” ではなく、”無軌条電車” と言って ”線路の無い電車” という区分です。その”気動車”版ですね。勝手ながら・・・。)”鉄道” を敷設したのと同様の利便性を求める事も可能かと思います。公共交通の整備が急務であるハノイにとって "BRT" はひとつの有効な方法であると思います。

  ハノイの "BRT" は、Giang Vo 通りなどでは、通りの中央に専用のレーンを整備し、ガラス張りの建物とプラットホームを持った ”駅” のような ”停留所” を作り、Kim Ma バスターミナルは、"BRT" を中心にしたターミナル駅のように改装されました。一緒にビルも建てて・・・。でもこのビル、2階以上は何に使うのか?半年くらい前に見た時にはまだガラガラでした。これも賃貸のオフィスビルにしようとしたのかな?

  "BRT" は開業してみると意外に好評だったようです。構想段階では、1路線だけでなく、4路線くらいの案があったそうですが、専用レーンを作ることができる道幅の通りがあまりないことと、ハノイ市があまり乗る気でなかったようで・・・、まず1路線というようになったようです。(これに約60億円かかったそうで高額すぎるとの批判は多いそうです・・・。確かに、どこにそんなにお金がかかったのかな?と思わなくもないですが・・・。 "BRT" は安価で早くがメリットなのに・・・。でも "鉄道" を敷設するより安いか・・・。)

  開業前の1ヶ月くらいの間、無料お試し期間を設けていました。開業前、まぁまぁ、いろんな異論を聞いたこと・・・。「速くてもバスなんかに誰も乗らない」 とか、「専用レーンを作ってもバスなんか速くない」 だとか・・・。会社でもそうですが、何か新しいことをやろうとすると、否定的な意見を皆が争って言い出す・・・これがいつも、うっとおしい事(失礼!)。何か改善のためのアイディアを持っている人は、否定的な ”世論” に押しつぶされて・・・本当は有能なんだけど積極的に前進できない人もいるかと思います。何か否定的な事を先に言っておいて、うまくいかなかったら、「ほら、俺の言ったとおりだろ!」 って、そのために議論していると思うような状況にいろいろ遭いましたが、そんな事を思い出したりしました。でも、うまくいったときは、前言は忘れて自分の事のように評価しだすということが簡単な人も少なくないですね。これはこれで、”議論のため” に言った前言に固執せず、うまくいったことに一緒になって前へ進んでくれる面もあるので、必ずしも悪い事ではないですが・・・。でも、一緒に仕事をして振り回されることも少なくなく、若干閉口の時も・・・。

  "BRT" 開業直後の好評な様子から、ハノイ市もすぐにいくつかの路線を更に作ることを発表していました。JICAなどでこれに関わった方々のご苦労を察します。

  でも、十分な道幅の通りが少ないのも現実ですので、まだまだ紆余曲折の面もあるようで、”BRT” はいいけど道路の渋滞がひどくなったとか、”BRT” の利用率が朝晩と日中で大きく違って日中は空間が無駄とか、確かになかなか難しい状況があるようで、ハノイ市も専用レーンに一般車を走らせることを許可することを考えたり、(これは絶対ダメです。ただの路線バスになるばかりかそれ以上に融通の利かないものとなってしまいます。)まだ悩みは多いようで、最近またほかの路線は不要というような論調が増えてきているみたいですね。まぁ1路線しかなく、そして専用レーンも全線にわたって整備し切れていないので、これだけで ”BRT” というものの完全な評価はし難いかと思いますので、簡単に良し悪しだけの議論をしてほしくないと考えます。比較的簡単に開設したり、止めたりできるのが ”BRT" のメリットであると思いますので、ちゃんとコストを抑えながら着実に進めて行って欲しいと思います。公共交通の充実が都市発展の急務である現在のハノイ市には、"BRT" は有効な手段のひとつと思います。安く作っておけば、将来従来の道に戻すことも簡単な筈です。私自身、"BRT" にそれほど肩入れするつもりはないのですが、公共交通というような莫大な費用と時間がかかるようなインフラ整備の過程では、適切な手段の一つである思うのですが、世論はこのような中途半端と見えるようなものに対しては、熟慮の前に嫌われがちです。"BRT" のようなものが喧々諤々しながらも開業できたのは従来のベトナム社会から考えると快挙と言ってよいのでは?と感じます。ですから、将来構想と直近の課題を踏まえて、"BRT" であれば "BRT" でその価値を創造していっていただきたいと思う次第です。

  ”公共交通” の充実はハノイの社会の発展、人々の生活の質の向上などに対する急務です。現状をそのままにしておくと、近い将来必ず発展の ”足かせ” となります。

 

  写真は、BRTの写真は、ハノイ市のサイトから借用しました。その右はBRTレーンのあるGing Vo 通りの通勤ラッシュ時間の様子。下の3枚は、それまでのバスのイメージ写真として。人の写真はバスを待っている人です・・・。

2019年01月12日