ベトナムの医療事情

  大袈裟な題名ですが、医療事情の調査報告をしようとするものではありません・・・。

  まず、ベトナムの公的保険制度は、だいたい日本と似たものがあります。“社会保険”と“医療保険”と“失業保険”があります。“失業保険”は比較的新しく、2009年にできました。会社に勤めている場合は、一定の割合の保険料を会社と本人が払って、公的保険に加入することが義務となっています。

  医者にかかるときは、“医療保険” を使い、一定の%(病気の種類によって)を本人が負担し、残りは “医療保険” から支払われます。 “休業補償” は ”社会保険“ から支給されます。だけど、”医療保険“ をみんな頼りにしていないようで・・・。 「これでは医者にかかれない。」 と言っていたりします。要は、優れた医者や設備が整った病院ほど、公的 ”医療保険“ の患者は受けたがらないということのようです。昔、会社で従業員が怪我をして病院へ運んだことがありましたが、そういえば、付き添った総務の社員は、まず十分なお金を持っていきました。お金持ちの人は、公的保険が及ばない外国、シンガポールなどに行って治療をしていたりすることも多く聞きます。多分、民間保険をかけているのでしょう。日本人が海外旅行に行く時に ”旅行傷害保険“ をかけることがありますが、”疾病治療“ の項目でそれなりの手術ができるくらいの金額をつけることができます。1年間かけたとしても、その保険料はベトナムのお金持ちにはそんなに莫大な金額ではないかと思います。

  話はそれますが、外国人は大体の人がこのような民間保険をかけてきますね。最近は、ハノイでも外国人が安心してかかることができる近代的な医療施設が増えてきました。ある病院では、今時 “外国人用フロア” や "外国人用待合室" なんかを新設して軽食や飲み物などを用意しているところがあったりします。患者本人は、保険料を払ってしまった後は、細かい医療費の差は気にしません。 ”外国人用フロア” などと特別なことをすると、それらみんな保険請求に乗せて、その上エクストラ利益も乗せているんだなぁ・・・と思ってしまいます。ベトナムのお金持ちも、民間保険で優先的な待遇で受診しているのかと思います。また現金で全部払う人もいますね。だから、公的“医療保険” でかかる患者は優先度が低くなってしまうのかもしれませんね・・・。

  ハノイの人達は、昔から健康にはとても敏感です。朝早くから、体操やヨガ、ところによってはエアロビクス(早朝からちゃんとインストラクターがいたりします。)、また本格的にバドミントン、等々、運動をして健康増進に努めている姿をよく見ますね。食事もまず “野菜”。健康的な食材には皆大変詳しいです。それは、前述の医療事情が皆をそうさせる理由かと思います。「自分の命は自分で守らなくては早死にしてしまう」 ってね。

  余計なことですが、“野菜” というところで、石油価格が高騰すると、“生活が厳しくなった” と皆言います。勿論、バイクで燃料を買っているのでそれも効きますが、1リッターで50キロ走るバイクの燃料がそんなにすぐに大きく効いてくるかなぁ?と思うのですが、それだけでなく、野菜の価格がすぐに高騰するのだそうです。鉄道網が未熟なベトナムでは陸上の物流はトラックに頼る割合が高く、“野菜“ は、燃料高騰がすぐに効いてくるようです。”風が吹けば桶屋が儲かる“ ように、なかなかわからなかったのですが・・・。皆ただ 「給与が足りない」 って単に訴えていたわけではないですね。それから、どんどん話はそれていきますが、石油価格が高騰すると、交差点でバイクのエンジンを切るようになってきました。また会社に相乗りで来るようになってきました。石油価格が落ち着いた後も、何となく習慣になって続けられている様子です。交差点でのアイドリングストップは、今は多くの人がやっています。今は ”エコ“ ということもあるかもしれません。こういうことを気軽に始めるというところは前提なしに見習うべきところですね。

  話を元に戻して・・・ と、言いながら“90年代に跳んでしまいますが、昔の医療事情は、もっともっと厳しく、その上病気についての知識が乏しかったと言えます。そのような教育や情報が無かったんですね。兎に角、体調に異変があると、すぐに ”死“ を意識して大変な事になってしまいます。

  会社で、朝よく倒れる従業員がいました。“貧血“ ですね。’90年代は朝食を摂っていない人が殆どで、会社の食堂で食べる昼食が一日で一番良い食事と言っている従業員も少なくありませんでした。それなら、”貧血“ で倒れる子が頻発するのも無理がないのかも知れません。月曜日に多く、連休だったりすると倍増します。会社には ”保健室” がありますが、倒れた子はそこに担ぎ込まれます。男性従業員が5人くらいで運んできます。それが、5人が全速力で駆け足で来ます。人が突然倒れて、もう “一大事!!”、”死んでしまうかも知れない‼︎“ という雰囲気で・・・。私など、その状況にビックリして、「貧血では死なないけど、みんなが転んだらこの子は頭打って死ぬぞ!!」 って怒鳴ってました。次に保健室の中。担ぎ込まれた後は、一緒についてきた女子従業員が3~4人、なかなか出てきません。様子を見てみると、保健室のベッドの上で、真っ青な顔をした子の上体を起こして(”貧血” は頭を低くしなくっちゃ・・・)、肩を抱いて頭をなぜてあげて・・・。もうひとりは右手を、もう一人は左手を擦って・・・。もし私だったら、「何でもいいからみんな離れて寝かせてくれ~!!」 って訴えたくなってしまうような状況、具合の悪い当人はもうされるがままです。手を擦っている子をよく見ると、手に何か塗り込んでいます。“メンソレータム” や “タイガーバーム”のようなもの(当時のベトナムでは、中国製の “タイガーバーム擬き” かな?)を一生懸命塗り込んでいます・・・。何故?兎に角、保健室に運んできた連中には 「もう大丈夫だから仕事へ戻れ~!」 と言って蹴散らします。みんな “この人はなんて冷たい人なんだろう・・・” と冷ややかな目を私に向けて去っていきます。その後、総務の担当者が様子を見ると、やはり貧血のようで、1時間ほどで顔色も良くなって仕事に戻っていきます。何故?手に薬を塗り込むの?何故?

  別の例で、おなかが痛くて、おなかを抑えながら目を真っ赤にして、しくしく泣きながら、2人に付き添われて歩いて保健室に来た子がいました。保健室に入り・・・、今までの指導の甲斐あって付き添いの2人はすぐに仕事に戻っていきました。その後、総務の担当者が血相を変えて出てきて、“すぐに病院へ‼︎ 死んじゃう!!” と。容体急変か?とびっくりして、車の用意を命じて、保健室に入ってみると、むしろさっきより落ち着いていて、容体急変というより安定と言った様子でした。まだ泣いていましたが・・・。何故泣くんでしょう? 総務の担当者が、やはり薬を手に塗り込んでいました。何故?おなかが痛かったんじゃなかったの?それよりなんで “死んじゃうかも” なのか・・・総務の担当者に聞いいたところ、“手が冷たい” と言うのです・・・???。

  亡くなった人は体が冷たくなります。身体の末端部の手は最初に冷たくなります・・・・・‼︎。なるほど‼︎ みんなは手が冷たいことが原因で人は死んでしまうと思っているのね。だから手に薬を塗り込んで手を直そうとしているのね・・・。やっと理解ができました。それから当人は、“死んじゃうかもしれない” と泣いていたんですね・・・。

  因みにこの子は、おなかが痛い理由がわからなかったので、病院へは連れて行きましたが、大変な状況ではなく、薬をもらって会社に戻り、食堂で元気に昼食を食べて、午後には仕事に戻っていました。

  それから20余年後の現在、会社の規模から保健室に有資格者がいます。また、昔のようなビックリするようなことはなくなりました。“貧血” で、という例も比較的少なくなり、妊娠初期での体調不良とか、頭痛がするとか、風邪をひいたとか、普通になってきました。家庭に問題があって思い悩んで過呼吸になって・・・、なんて現代的な例も。“貧血” の例などは男性社員2人が担架で静かに運んできます。

  “医療事情” を考える上で、特徴的と感じるのが、40歳前後に3人目の子供出産する社員が大変増えた事。ベトナムは長く “ふたりっ子” 政策でしたが、4年くらい前に撤廃されました。やはり将来の“高齢化社会” の懸念が理由のようです。この直後から、特に娘さん2人の家庭は、”もう1人何とか男の子を”と、40歳前後で3人目の出産が大変増えました。現在でも、どこの国でも、初産でなくても、40歳くらいでの出産はリスクが高いですが、あまり躊躇することなく・・・ という様子は、医療事情が大きく進化し医療や病気や身体に関する教育や情報も普通になってきているのだと感じます。“医療保険” はまだまだ 完全とは言えないのですが、庶民があまり “死んじゃうかもしれない” 恐怖を考えないで済むようになってきているのかと思います。昔より経済的に余裕があるということもあろうかと思いますが。

  でも、数年前に “貧血” などで倒れた子を運ぶため、会社のいくつかの場所に “車いす” を計7~8台を配置したいと(保健室に1台はありましたが・・・)保健室の担当者が申請したことがありました。素早く、軽く、楽に運べるからだそうです。だから~!”貧血“ の時は頭を低くしなくっちゃダメだって!!・・・。”車いす“のアイディアは却下され担架を増やしました。”運ばれる“人の状況を先に考えないとね。

 

(写真はあまり関係ありません。イメージ写真として・・・)

2018年12月05日